『理由(宮部みゆき)』再々読のあらすじ、感想
『理由』。殺されたのは「誰」で、いったい「誰」が殺人者であったのかが分からない、宮部みゆきの代表作かつ直木賞作品。
1996年から朝日新聞で連載されていました。
読むのは3回目だったのですが内容を忘れてしまって、新たな気持ちで読むことができました。何度読んでも面白いです。
殺人事件のほかに、様々な形の家族が描かれているために、小説としての魅力があるからだと思います。
20年近く前の本なのに内容に古臭さがないのですが、バブル後に土地の値段が下がってくるくだりは、時代を感じますね。1990年代中盤頃が舞台のお話です。
あらすじ
舞台は東京都荒川区の超高層マンション「ヴァンダール千住北ニューシティ」の2025号室。豪華なマンションで、お金持ちが住むようなマンションだ。
ある雨の日、この2025号室から飛び落ちた男が死んでしまう。そして、同室に3名の死体(50代くらいの夫婦とその母親と見られる)が発見される。
当初、50代くらい夫婦、その20代くらいの息子、祖母の4名の家族殺害事件だと思われる。
だが、彼らはマンションの管理簿に登録されている2025号室の持ち主とは異なる人々だということが分かる。いったい誰なのか?
物語が進んでいくと、2025号室の本来の持ち主はローンが払えなくなり、この部屋は競売にかけられていたことが分かる。
殺された人たちは、「占有屋」として仕事を斡旋されて住み着いていた人たちで、彼ら自体が寄せ集めのニセの家族だった・・・
感想
まず目をひくのは、この本自体が週刊誌に載っているようなドキュメンタリー調で進んでいくことです。まるでノンフィクションの本を読んでいるようで、より現実味を感じました。
本書は主人公がいません。
特定の登場人物からの固定された視点ではなく、様々な登場人物の視点で殺人事件が語られ、その事実の結晶で事件の全体像が見えてくる形式です。
テーマは家族とその絆であり、問題を抱えた家族の姿が映し出されます。
殺されてしまった「ニセの家族」もそこでまた家族の問題を抱え、破滅してしまうという悲しい物語でした。
登場人物はとても多いのですが、物語が進んでも「誰だっけ?」と分からなくなることはなく、皆印象的に描かれています。
通勤中に少しずつ読み進めていきましたが、章が短いのでキリがよく夢中で読めました。
朝日新聞に連載されていたときは、毎日欠かさず少しずつ読み進めるということができなくて(学生でしたしね・・・)リアルタイムでは読んでいなかったのですが、当時読んでいれば気になって仕方なかったと思います。
新聞の連載のスペースって小さいですから。
極上のミステリー、堪能しました。