平働休遊な生活

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『闇の底(薬丸岳)』で読む、遺族の苦しみ

闇の底 (講談社文庫)

あらすじ

女児への性犯罪事件が起きるごとに、刑期を満了して出所している性犯罪者を処刑する事件が発生した。犯人は自らを「処刑人・サンソン」と名乗る。
犯人を追うのは、小学生の頃、妹を性犯罪事件で亡くした刑事・長瀬。捜査の過程で、サンソンが狙っている元性犯罪者の中に、妹を殺害した犯人・小坂も含まれていることを知る。赦し難い犯罪者でも守るべきか、世論はサンソン容認派も出てくるが、、、

 

泣くべき時と分かっていても泣くことができない

長瀬が妹を亡くした時のことです。

自分は泣くことができなかった。冷淡な人間なのだろうかと幼いながらに悩んだ。・・・(中略)、一方では冷静な思考を持ちながら絵美(妹)を見送った。

泣くべきところで泣けず、逆に冷静になっている自分と出会うと、自分が人として何か足りていないのではないかという感覚に陥ります。感受性が鈍いのではないかと思ったり、冷たい人間なのだと思ったり、ちょっとした悩みでした。そのような気持ちを代弁してくれたようで、すっきりとしました。

 

出来事が大きすぎて、自分で感情を処理できないということでしょうか。非日常的なことが起きると、キャパシティオーバーとなって、かえって冷静になってしまいます。
長瀬の心の闇の深さを感じさせるエピソードです。

 

サンソン

本書のキーワードです。

かつてパリには世襲の死刑執行人がいた。サンソン家は、六代にわたってパリの死刑執行人を務めた家系である。とくに四代目のシャルル-アンリ・サンソンは有名で、生涯で三千人近くを処刑し、フランス革命期に、崇敬する国王ルイ16世と王妃マリー・アントワネットを自らの手で処刑した。処刑道具として有名なギロチンの発明に加わったのも四代目のサンソンである。

と説明されています。
犯罪者を私人が裁くことは認められていません。が、殺害現場のDVD(サンソンはそれを警察やマスコミに送り付けるのです)を見た長瀬の顔が一瞬笑ったように見えたという記述があり議論を誘います。長瀬の回想では、殺害された元犯罪者が小坂に置き換わって見えたのです。

 

復讐

結末としては、長瀬は小坂に復讐を遂げる形となり、ショッキングなエンディングを迎えます。事件から24年経っても尚、犯人を恨む被害者遺族の心の苦しみは褪せることはないということがよくわかります。

 

よくわかるからこそ、復讐を遂げることが正しいことなのかどうか、考えさせられる内容でした。もちろん実社会では許されていることではありませんが、小説で問われるからこそ感情移入して考えさせられました。

 

犯罪によって大切な人を失った遺族の苦しみがこれほど深く鮮明なものであるということが心に強く刻まれることになった作品でした。